バーニー・クラウスの音からは「絶滅の音」が聞こえてくる。#世界環境デー

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音響生態学者の第一人者であるバーニー・クラウス。「地獄の黙示録」を含む135の映画に携わり、シンセサイザー界やハリウッドでは、名の知れた有名ミュージシャンでした。その後フィールドレコーディングに没頭し、1968年から世界旅行をスタート。北極氷河の流動する音から、捕まえるのが困難だというルワンダのゴリラまで、あらゆる自然界の音を録音しています。2000に及ぶ生息地と、15,000に及ぶ生物種をあわせ、彼が残したレコーディングアーカイブはなんと5000時間以上。録音した生息地のうちの50%は、すでに存在していません。クラウスの残した音源は、我々に「不都合な真実」を明かします。

ポール・ビーバーと共に制作した1970年の名盤『In a Wild Sanctuary』では、モーグシンセサイザーを用いて「生態学」をテーマにしたサウンドを作り上げました。この作品がきっかけとなり、クラウスは初めて自分の天職 (true calling) を見つけました。

“The natural world’s collective voice represents the oldest and most beautiful music on the planet.” 

「自然界の声は、地球上で最も古く美しい音楽を表しています」

バーニー・クラウス (2012)『野生のオーケストラが聴こえる』より

クラウスは大自然に存在する音に関する、独特な洞察を構築し、三種類のサウンドスケープを定義しました。ジオフォニー ー 風、波、雷といった生物ではない音のこと。バイオフォニー ー 生物が生み出した音。アンソロフォニー ー劇場からノイズまで、人間が作り出す音。80年代には、ケニアで収録した動物の音が、オーケストラアンサンブルのように聞こえると推測し、旅行から戻ってきてすぐ、音のグラフィックを表するスペクトログラムを通して、実際に自然の音から「音楽構成」と「楽譜」を見出しました。哺乳類はソリスト、昆虫は振幅変調の周波数というように、小さな生き物から大型動物まで、それぞれが交響楽団の演奏者のように自分の役割を持っていました。


サウンドスケープからは、そんな情報を得られないと考える人もいるでしょう。クラウスは長期にわたって、注意深く自然界の音からの情報の解読を試みました。例えば「かさかさ」とした音は、反響せずにすぐに吸収されるため、低湿度と見なされます。生物が生み出す音、バイオフォニーを通じて、生息地の多様性と密度、そして動物のストレスレベルをも評価できることが判明しました。人間から生み出したノイズ(アンソロフォニー)はバイオフォニーに影響します。下記のグラフは、飛行しているジェットが、どのようにアマゾンの鳥、蛙、昆虫の発声にインパクトを与えていたかを示しています。

バーニー・クラウス (2012)『野生のオーケストラが聴こえる』) P152-153 より

バーニー・クラウス (2012)『野生のオーケストラが聴こえる』) P152-153 より

左の図:ジェット飛行前 右の図:ジェット飛行中

1988年には、カリフォルニア州のシエラネバダ山脈にある原生林リンカーン・メドウに選択択伐が実施され、クラウスは択伐前後の音を収録する許可を得ました。伐採会社は現地の住民に選択択伐は森林破壊と異なり環境に影響を与えないと、選択伐採の実施を説得させました。クラウスは十年間の間に伐採前後の現地の音を繰り返し15回を録音しましたが、結局最初の音は二度と戻って来ませんでした。視覚的に森の姿はそれほど変化していません。しかし、彼の収録した音源は、別のストーリーを物語っていました。彼は1枚の写真は1000のことばに値し、ひとつの音源は1000枚の写真に匹敵すると語りました。

1988年選択択伐の前の音

1989年選択択伐の後の音

人新世の始まりには、自然のオーケストラは調律されていませんでした。長期にわたって音をアーカイブすればするほど、音の喪失に人々が気づかされました。それは一つの生物種が絶滅しているだけではなく、生息地そのものが全体的に消えてしまったことです。50年前、1時間の音源を収録するためには、10時間程かかりましたが、今日同じ音量を収録するためには、1000時間以上の手間が取ります。それは、人間のノイズがいたるところにあり、そこから離れないといけないからです。彼は自然の中で人々がどういう風に音を体験することを見ると残念に思い、自然の音を静かに聞く必要があると力説します。

世界温暖化は世界規模と地域規模で起こっており、2017年に発生したカリフォルニア州の野火で、クラウスは家を失ってしまいます。彼のデジタルレコーディングはバックアップされていましたが、50年間をかけて貴重なアナログレコーディング、ジャーナル執筆、一生で使われた歴史的な音楽機材などが一切なくなってしまいました。しかし82歳となった今でもクラウスの収録に対する熱意は失われず、自然の音を収録し続けています。自然の音は、私たちの文化と音楽の基盤でもあリます。

最後に、こちらのリンクから心を和ませる野生生物の声とワールドミュージックを融合した『The Rhythms of Africa』の短いサウンドトラックをお聞きください。クラウスの「The Wild Sancturay」からダグラス・クインが過酷な環境でレコーディングした、氷河のきしみ、アザラシ、ペンギンの声を収録した『Antarctica』もオススメです。

written by HEU

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